近況

俺と鳩と卵の7日間

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

はじめに断っておくとこの話は、とくに動物好きの人にとって後味の悪い結末を迎えるかもしれません。それでも、自分なりに整理したかったことと、また同じようなことを経験する人にとって意味はあるのではと思って、書くことにしました。今日イヴですけどな。

以上を踏まえた上で読んでください。

うちのベランダで鳩が卵を産んだ

ベランダに鳩がしつこくやってくるので、そのたびに「コラッ!」と声を上げては追い返していた。ずっと家に閉じこもって仕事しているので、鳩としか話さない一日も何度かあった。それでもやっぱりやってくるのでなにか良い手はないか…と思い、もともとあった洗濯機にかける鳩のフン避けカバー(すでにフンまみれ)で柵を覆ってしまおうと考えたのだ。これなら文字通り、やつらが侵入する余地はない。そんなときに、見つけてしまった。

あっ、卵。

 

なるほど。そういうこと…。

 

あいつらこれまで、新居の内覧をしてたのか。だから、何度も何度もやってきたのか。そして決め手はおそらく、最近二週間ほど家を空けていたこと。その間に、入居を済ませ、巣をつくり、卵までこさえていたということになる。「勘弁してくれ」以外の言葉が思いつかない。もちろんそれは、「捨てる」という行動は最初からないからだ。情がなかろうが、その選択はあまりに鬼畜すぎる。ここが仏教国のタイで、「弱者(動物)を助ける仏教思想が根付いているから」という理由もなくはない。お天道さまが見ているどころが凝視してくる。余談ですが、お天道さまは仏陀でも釈迦でもないそうです。

とりあえず、また確実に戻ってくるだろうから、洗濯物を汚されても困るしと物干し用のスタンドを部屋に引っ張り込んだ。

軒を貸して母屋ならぬベランダを取られるの図。

余談ながら、このとき…。

エアコンの室外機に頭をぶつけて思いっきり流血しました(ひとつ前のブッサイクな苦悶の表情は、ぶつけた直後のマジの顔)。

まさかこんなところで、ミャンマーの少数民族パオ族のターバンの巻き方が活きるとは。

今まで頭から血を流したことって今まであったかな…。

なんにしろこのままベランダを明け渡すつもりもなし。譲りもしないし、自分の生活を変えるつもりもない。そうだ!区切ろう、鳩と人間の生活圏を。ラブコメでよくある、お互い意識している男女がひょんなことから同じ部屋に泊まり、間にテーブルを置いて「ここを越えたらぶっ飛ばすからね!」「だれがするか!」「ふんだ!」ってやつだ。って、やつか?ちがうか。知らんがな。それに相手は女子どころか鳩やがな(メスだから女子は女子か)。

ちょうどよく溜め込んでいた、というより捨てるのが面倒だった段ボールがあったので、洗濯機の角と壁を囲って大きめの「巣箱」をつくることにした。いそいそと部屋に引っ込み、段ボールとハサミを引っ張り出して、ふたたびベランダに戻ると…。

ん…?

あっ!

待てこら~!

てめぇか~~!!

私「こっちは流血したんだぞ!不注意だけどな!」(実際は言ってない)
鳩「クルッポー!」(実際は言ってない)

ほんと、どうしてくれようか…って、俺はまさにいまあいつに巣箱をつくろうとしているのだった。なんで仇を恩で返しているんだ。恩を仇で返したっておかしいのに。御託はいいから、離れている間にとっととやるか~。

 

しかし、

 

視線を外すとすぐに戻ってきて、

作業の邪魔になるので威嚇するもすぐに戻ってくる…の繰り返し。

鳩ってちょっとでも近づくとすぐ逃げるものだと思ってた、というより今も思っているんだけど、こいつ隙あらば…というか俺がいようとすぐに戻ってくるな。やっぱり卵が気になるんだ。分かったよ、チャッチャとやるから、そこで待ってろよ…。

洗濯機わきの隙間をきっちり埋めて、

裏側からベランダに侵入できないよう天板も設置。

入ったー!なんだかんだでうれしい時点で、ちょっと悔しい

様子を見れるフタ付きです。

んん!間に合わせでつくったにしちゃ上出来じゃないかね。

そのあと、ふと気になって調べてみると、

鳩の卵は孵化に2~3週間、巣立ちに一ヶ月かかるらしい。へぇ~知らなんだ。

実を言うとちょうどこのタイミングで、一ヶ月半ほどあとに今の家を退去する予定だった。鳩の巣立ちが間に合うか、俺の「巣立ち」が間に合うか、まさに「チキン」レースって訳だ。掛かりすぎて逆にうっとうしいし、大してうまくもない。それにチキンは鶏だしな。

しかし、このとき、あることを見落としていた

それが、冒頭で示唆した結末を引き起こすことになる。

 

父鳩は黒くてなんか恐い

翌朝早々に洗濯機裏を覗いてみると、やはりいた。

こうしてずっと温めてんのかな、まー当たり前か。

食べるか~?と思って試しにパンくずを落としたら、びっくりするほどバサバサーッと羽音を立てて、卵を置いてそっこう逃げた。いや、びっくりしたのは向こうの方か。お前それ、大家が「みかんあるんだけどどう~?」って聞いたら赤ちゃん放ったらかして窓から逃げるようなもんだぞ。そこに母性はあるのかい?鳩の生態に難癖つけるほど不毛な話もないか。

でも俺がしばらく離れたら、すぐに戻ってくる。この警戒ぶりを見るに、俺が「勘弁してよ…」と思っているように、鳩も「勘弁してくれよ…」と思っているんだろう。

ここでハッキリしたことがある。鳩がいったん距離を置くとき、必ずあの位置に戻る。

あの位置。

よく見たらあの部屋、住人いねぇじゃねーか。なんであそこじゃなくうちにしたんだよ。日当たりとかよかったのかな…。

それからなんとなく、数時間おきに様子を見る習慣がついた。見たところでなにか変わる訳じゃないし、むしろ鳩からすると迷惑極まりないだろうけど、ボテッとからだを下ろして甲斐甲斐しく動かず卵を温める様子が、なんだかかわいく見えるのだ。でもこれ、鳩というか、動物を見るという行為が楽しいだけなのかもしれない。よく考えたら動物園とかまさにそうだし。でもそれからしばらくして、それは間違いだったことに気づく。

数日後、鳩の様子を見ようとすると…。

お前、だれ!?

真っ白とは言わないまでも、あれだけ白かった鳩がいきなり黒くなってる。え、なに、なにごと…あ、あー、そうかこいつ!父鳩かぁ。

よく考えれば白鳩が母鳩である根拠もないので逆かもしれないが、このときはなぜか「こいつが父鳩に違いない」と思いこんでいた。勝手に色から受け取った印象だろう。そういえば、ネットにあった鳩の解説ページにも、母鳩と父鳩が交代で卵を温めると書いてあった。鳩界では父親も積極的に育児参加しているのだな。けっこうけっこう。しかし…。

こうして見ると、やっぱり黒より白がいい。

なんとなく、黒は怖くて迫力がある。カラスを連想させるからかもしれない。それに全身が黒いだけに、鳩目が目立つ。漫画でキャラクターがダークサイドに落ちたときに目が反転する感じで不気味だ。「動物を見るという行為が好きなのかもしんない~」なんてほざいたが、訂正しましょう。結局、俺は黒鳩より白鳩が好きなだけなのだ。

そうして「あること」を思い出す

「あることを見落としていた」と書いたが、それを思い出すのは時間の問題だった。

この記事、ここから流れが変わってくる。

洗濯物、溜まってきたなぁ。

洗濯洗濯…あ。

なぜか今まで気づかなかった、鳩の巣の位置はガッツリ排水口の上にある。このまま洗濯機を動かしたら、たぶん排水で巣はビチャビチャになって、あたためるどころの騒ぎじゃない。なにかこう、手はないか。うーん、とりあえず…ずらしてみるか?

鳩をいつもの場所にいったん追いやり、

段ボールの切れ端の上に、卵ごと巣をのせてずらてみる。

めちゃくちゃ不安そうに上から見てくる母(仮)鳩。

しかしこれ、排水口の上にファサッと置いてあるだけかと思ったら、フタの網目にガッツリと絡まっている。この状態、排水を避ける以前にご立派に詰まっちまうじゃないか。我が生活に支障をきたしてしまうではないか。枝を一本一本、割り箸で丁寧に引っこ抜いて引っ越し完了。あとは~、排水ホースの向きも反対側へ変えておいた方がいいかな…。

いきなり番地がひとつずれた新居にしばらく戸惑っていたが、無事に戻ってくれた。

うっし、よしよし!とりあえずこれで俺も鳩も生活は守られるだろう。が…。

 

この考えが甘かった。

 

翌日ー、

 

あっ!

あ、荒らされている………。

一瞬「猫か?」と思ったが、このベランダに猫はおろか、小動物の類は鳩以外に一切来たことがない。なにしろ16階とそこそこの高層なので(バンコクのコンドミニアムなら一般的だが)、危ないことくらい猫にだって分かるだろう。たぶん。ならば、これをやったのは鳩自身だ。気に入らなかったんだ。とはいえ、自らの卵も蹴散らして離れるとは。部屋に戻りネットで調べてみると、「人の手が加わった巣は放棄されることが多い」という記述。

俺、やっちまったか…。

別の方法はあったのかな?

あるとすれば、鳩ではなく、自分が洗濯機を放棄して、コインランドリーを使うくらいしか思いつかない。でも、それを分かっていたとしても選んだだろうか?俺は分かっていたとしても…。なんてことをひとりで葛藤していると、ベランダからバサバサッと羽音がした。

あれ!?

あいつ…

まだいる…放棄したんじゃなかったのか?さっきまで巣にいた??

ん、あれ?これってなんか…

立て直してる…!

これ、排水口の上にふたたび巣を作ろうとしているな!

いや、しかし、うーん!ダメなんだよ!ここにあると、必ず洪水が起こるんだ。数百年前の先祖の教訓とかじゃないぞ、今だ、ナウだ。明日にでも流れるぞ。で、自然災害とかじゃないんだ、俺の意思でもあるんだよ…。明日、俺が清潔な服を着るために、お前たちの家を脅かすことになるの。大人しく立ち退いてくれよ。どうしろっつーんだ。あぁ。あぁ。

 

鳩の生活と俺の生活

このまま排水口での巣作りを認めれば、洗濯はできない。「洗濯できないくらい…」と言われてしまうかもしれないが、鳩の卵を見つけた時点で、最初から決めていたことがある。それは「ここで俺の生活を変えたら自然じゃない」ということ。人にだって動物にだって、できることなら優しくしたい。でも、聖人ではないし、自己犠牲に生きるつもりもない。その自分なりの自然というのが、お互いの生活を最大限違わせることだった。

いろいろと思案した上で、排水口の上にビニール袋を敷いた上で、段ボールと巣を置いた。鳩のこだわりがこの、「角」にあるのか、「排水口の上」にあるのか、どちらなのかは分からない。今ここで俺が手を出しても放棄まではしなかっただけの母性を考えれば、前者であればこのまま子育てを再開してくれるだろう。後者なら、そのときはそのときだ。

戻って…

あたためた!これなら…!

 

が、現実は無情。

その日の夜、様子を見てみるとー、

 

巣は以前以上に散乱し、放棄。

もしかしたら…と翌朝に確認すると、戻ってくるどころか、むしろ卵が一個消えていた。

実は最初に卵を移動しようとしたとき、軽くヒビのようなものが見えていた。大丈夫かな…と思っていたが、隅に追いやられたあとの卵には遠目に見ても分かるヒビが入っていたのだけど、これは鳩がわざと落としたのだろうか。そんなことがあるのかさっぱり分からない、専門的なことは見当もつかないので考えてもしょうがない。

だが、「あの場所」に目をやると、

夫婦揃って佇んでいた。

完全に放棄したのなら、もうここには用はないはず。戻ってくるのか、あるいは今後の話をしているのか、はたまた単にこのあたりが彼らのテリトリーで実はここに関心を失っているのか。これまでなんとなく鳩とコミュニケーションをとっている気分になっていたが、そんな訳もなく、今や、というよりもともと彼らの考えなど知るよしもない。

そのあと、鬱屈した気分で近所のスーパーへ買い物に出かけると、自分でもよく見つけたなと思うが、彼らを発見。

白鳩は珍しいし、あとで写真を見直すと柄も一致していたので間違いない。あの親鳩だ。

そしてその翌日も、彼らはいつものあの場所にいた。

悲しみに暮れているのだろうか。それとも、俺を責めているのだろうか。

 

公園の土に

悪いことをしたな、とは思っている。

自分の非を隠すため誤魔化してもしょうがないのでハッキリと書くと、一度目はともかく、二度目に動かすときには「人の手が加わると放棄される」という可能性を知っていた。だから、無事に戻ってくれることが最善だったが、こういうことも起こり得るということは分かっていた。しかし、繰り返しになるが、そこで排水口を明け渡すのは、自分にとっての利害とは関係ないところで、「自然じゃない」「やるべきでない」と思っていたのだ。そこまで譲歩することに、どこか人としてのおこがましさを感じていたとも言える。「それで産まれるものも産まれなければ…」と言われてしまえば、その通りだ。分かってほしいとも思っていない。正当化するつもりはなく、ただ、自分はそう考えて実行した、というだけ。

わざわざ言わなくてもいいことを書いているな、と思う。でもこれは冒頭で書いたように、整理のためだからそれはいい。でも、もしかしたら、自然じゃない、選ぼうとして選んだんだと言いつつ、いまだに割り切れず自責の念からこんな文章を書いているのかもしれない。そうあるべきだといくら考えて行動しようと、その選択によって拾えた命はあった。のかもしれない。当然、より悲しいことになっていた可能性だってある。分からない。

残された一個の卵。ひなの飼育は母鳩のミルクによって行われるため、人間の手によって行うことはほぼ不可能だという。責任は持てないと思い、親鳩が戻ってくることも考えて3日待ったが、状況は変わらなかったので、鳩の多い公園の土に埋めることにした。

少しだけふしぎなことが起きた。

そこには3羽ほどのカラスがギャーギャーと鳴いていて、人間の自分の前だって、バサバサーッと無遠慮に横切る。カラスにゃ悪いが不吉だなぁ、掘り返されたりはしないかな…なんて思いながら卵を取り出すと、その3羽がサーッと消え、彼らがまるっと鳩に入れ替わった。ただの偶然だと思うけど、巣を放棄した直後の親鳩の佇まいを思い出すと、縁もゆかりもない鳩ながら、孵らなかった卵に対する憐憫の情を彼らに見た気がしてならない。

埋めた場所に近づく鳩。

 

鳩の巣に手を出すも出さぬも慎重に

冒頭で書いた「同じようなことを経験する人にとって意味はあるのでは」と書いたこと。これはもうお察しかと思いますが、鳩の巣に手を出すも出さぬも慎重に、ということです。

前述のように、人の手が少しでも加わると、鳩は敏感に感じ取り、巣を放棄することが多いらしい。逆にそれを利用して、つくりはじめた時点で動かしたりバラしたりすれば、巣作りを防げるかもしれません(それでもしつこいとも聞きますが)。集合住宅などの場合はひなが孵ってからの方が、途中で死んでしまう可能性もふくめて問題はシビアでしょうし、巣作りを阻止することで移動を促すというのがお互いに良いこともあります。一方で、なんらかの理由で最後まで見守りたいのであれば、一切の手は出さない方がよさそうです。

ほとんどの人の命は多くの動物の命の上に立っているので、いまさらだろうなと思うのですが、あの二個の卵のことは忘れずにいようと思いました。もしかしたら、だからこうして記事に書き留めておきたかったのかもしれません。そう考えると、納得できます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket